SaaSは本当に終わるのか?
2026年、AIエージェント時代の真実
「SaaSは死んだ(SaaS is Dead)。」
2025年末から2026年初頭にかけて、シリコンバレーやX(旧Twitter)でこの言葉がトレンド入りした。発端は、Microsoftのサティア・ナデラCEOによる「SaaSは単なるCRUDのラッパーに過ぎなくなる」という趣旨の発言と、SaaS
AIエージェントの爆発的な進化だ。
SalesforceやAdobeといった巨人の株価が一瞬揺らぎ、投資家の資金は「AIネイティブ」な企業へと雪崩を打った。しかし、この終焉論は真実なのだろうか? それとも、過剰なポジショントークに過ぎないのか?
SaaSとは何か:200兆円市場への進化
議論に入る前に、SaaS(Software as a
Service)の現在地を整理しよう。かつてソフトウェアは「CD-ROMを買ってインストールするもの」だった。それを「ネット経由で利用し、月額課金(サブスクリプション)で支払う」モデルに変えたのがSaaSだ。
市場規模と主要プレイヤー(2026年予測)
世界市場は約3,150億〜4,000億ドル(約47〜60兆円)へと成長を続けている。日本国内だけでも約2兆円規模に達する見込みだ。
これらは今や、我々の仕事に不可欠なインフラとなっている。
図解1:パッケージからSaaS AIエージェント(Agentic SaaS)への進化
| Global Leaders (2026) |
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|---|---|---|
| 企業名 | カテゴリ | 主要プロダクト / 役割 |
| Salesforce | CRM / Platform | 顧客管理のデファクトスタンダード。AI「Agentforce」で自律化を推進。 |
| Microsoft | Productivity | Microsoft 365 Copilotにより、Office業務をAIが代行する基盤へ。 |
| ServiceNow | ITSM / Workflow | 企業内の「業務フロー」を自動化するデジタルバックボーン。 |
| Adobe | Creative / Doc | Fireflyなど生成AIを統合し、クリエイティブ作成を劇的に効率化。 |
| Japan Leaders (2026) |
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|---|---|---|
| 企業名 | カテゴリ | 主要プロダクト / 役割 |
| Sansan | 名刺管理 / DX | 「出会いからイノベーションを生み出す」ビジネスデータベース。 |
| Cybozu | Groupware | 「kintone」により、現場主体で業務アプリを作成・改善できる。 |
| Money Forward | Fintech / 会計 | 法人・個人の家計・会計データを統合し、金融のOSを目指す。 |
| freee | ERP / 会計・人事 | スモールビジネスのバックオフィスを統合管理する「統合型経営プラットフォーム」。 |
| LayerX | BS Management | 「バクラク」シリーズで経費精算・請求書処理をAIで自動化。 |
なぜ「SaaSは終わる」と言われるのか
市場は成長しているのに、なぜ「死」が叫ばれるのか。その理由は、SaaS AIエージェントがもたらす構造変化にある。
1. UI(画面)の消滅:人がクリックしなくなる
従来のSaaSは「人間が画面を見て、ボタンを押し、データを入力する」ことを前提に設計されていた。しかし、自律型SaaS
AIエージェントはAPI経由で直接データベースを操作する。「使いやすいUI」というSaaSの最大の価値が、エージェントにとっては無意味、あるいは邪魔になるのだ。
人間がログインしないなら、従来の「1ユーザー月額〇〇円」というシート課金モデル(Per-Seat
Pricing)は崩壊する。1つのエージェントが100人分の仕事をこなす世界では、SaaS企業の収益基盤が根底から覆される。
2. “Vibe Coding”によるコモディティ化
「Vibe Coding(自然言語での直感的なコーディング)」の普及により、CRMやタスク管理ツール程度の機能なら、エンジニアでなくても数時間で作れるようになった。
「特定の業務に特化したSaaS」を作っても、ユーザー自身がAIを使って「自分専用の完璧なツール」を激安で生成してしまう。機能による差別化(Moat)は消失し、SaaSは単なる「データ置き場」へと価値を下げていく──これが悲観論のシナリオだ。
図解:ベンダー製「既製品」から、ユーザー製「特注品(Vibe Coding)」へのシフト
3. SaaSスプロール(増えすぎ)問題の限界
企業は平均して100以上のSaaSを契約している。ID管理、セキュリティ、コスト管理は限界に達しており、「もう新しいツールは入れたくない」という”SaaS疲れ”が蔓延している。
生き残るSaaS、淘汰されるSaaS
しかし、全てのSaaSが死滅するわけではない。むしろ、「形を変えて」より強固になる領域がある。
生き残る条件:「データ」と「信頼」
SaaS AIエージェントは賢いが、責任は取れない。企業の財務データや個人情報を、昨日生成されたばかりの「野良アプリ」に預ける経営者はいないだろう。
Salesforceやfreee、Sansanのような「System of
Record(記録の正規な保管場所)」としての地位を確立しているSaaSは、SaaS AIエージェントが参照すべき「信頼できる情報源」として生き残る。
さらに、医療・金融・法務などの規制産業(Vertical SaaS)は、コンプライアンス対応という高い参入障壁に守られている。
図解2:生き残るSaaS・淘汰されるSaaSの分岐点
結論:Service-as-a-Softwareへのメタモルフォーゼ
SaaSは「なくなる」のではない。「人が使うツール」から「AIが使う基盤」、そして「成果そのものを売るサービス(Service-as-a-Software)」へと進化(Metamorphosis)するのだ。
これからの10年、勝者となるのは「使いやすい画面」を作った企業ではなく、「SaaS AIエージェントが最も働きやすい環境(API、データ構造)」を提供できた企業だろう。
あなたが使っているSaaSは、AI時代にも生き残れる設計になっているだろうか? 今一度、契約リストを見直す時が来たのかもしれない。